はじめに

1984年、島根県出雲市斐川町神庭にある小さな谷間から、銅剣358本が出土しました。
翌年そこから銅鐸6個、銅矛16本が出土しました。ここを荒神谷(こうじんだに)遺跡と呼んでます。

それまで日本で発掘された銅剣の総数は約300本。一気に倍以上の数の銅剣が、一カ所から発掘されたわけです。
さらに1996年、島根県雲南市加茂町岩倉から、銅鐸39個が発掘されました。これが加茂岩倉(かもいわくら)遺跡。1つの遺跡からの出土例としては、最多の39個が出土しました。

荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡、どちらも道路工事から偶然発見されたようです。まあ、遺跡や化石と言ったものは、偶然発見されるものがほとんどですが。
とにかく当時は、「古代史を覆す大発見」と騒がれたものでした。

私は中学/高校の6年間、島根県出雲市で過ごしました。出雲大社は遠足の定番地。このため出雲神話には馴染みがありました。従って、

「これは古代史を覆す大発見と言うより、出雲神話を裏付ける大発見ではないか」

と、漠然と思ってました。そのうち機会があれば調べてみようと。
が、私の出雲神話の知識は、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治とか、大国主(オオクニヌシ)の国譲りとか、因幡の白ウサギサブレとか、点の知識でしかなく、それらが線で繋がってない。

時は流れて2018年、私は縁あって、島根県出雲市に行くことになりました。ちょうどいい機会だ、出雲神話でも調べてみるか。私は図書館や資料館に通いつめました。
そして家に帰って、出雲で得た情報を繋ぎ合わせてみると、とんでもないことが分かってきました。

歴史はミステリー、謎のベールに包まれてます。
本書は古代、特に弥生時代終末期に何が起こったのか、探究するものです。太古の日本に何があったのか?
あなたもシャーロック・ホームズになって、歴史を探索する旅に出かけてみませんか。

 

前提条件

シャーロック・ホームズ。ご存知の通り、アーサー・コナン・ドイルが創作した、イギリスの名探偵です。私はホームズが大好きで小学生の頃、全巻読みました。特に、ホームズの考え方に魅了されたものです。

ホームズは何かの事件に出会った場合、まず頭を白い紙にします。これは、全ての予断や先入観を捨てることを意味します。

それからホームズは、自身で見聞きした情報を白い紙に書き込んでいきます。情報収集に時間がかかる場合、ホームズは趣味の音楽鑑賞や科学実験に没頭して、助手のワトソンを困惑させます。

「ホームズ、どうして事件のことを考えないんだい?」
「考える材料が足りないんだ。粘土が無くて煉瓦ができるか」

そして全ての材料が入手できたら、初めて考察に入ります。いわゆる「推理」というやつですね。過去にどんなことが起こったか、自分が犯人だったらどんな行動に出るか、未来はどうなるか、等々。
そしてホームズは犯人を先回りして、事件を解決します。

私もホームズの真似をして、頭を白い紙にしましょう。実際にやってみると、これがなかなか難しい。結論ありきの会議やアンケートなど、あなたも経験がありませんか?
とにかく、神話が実際に起こったことの象徴らしいという先入観も、全て捨てます。

それから情報収集。まずは出雲市にある中央図書館に行きました。ターゲットは、もちろん古事記。出雲神話が記述されている、国内最古の文章です。ところが古事記の原文は、全て漢字で書かれています。何が書かれてるのか、さっぱり分からん。そこで、古事記を分りやすく説明されている書物を探しました。見つけたのが、

「マンガで楽しむ出雲神話(山陰中央新報社)」

という、全5巻の漫画です。
漫画なら私でも読める。読んでみると、大変面白かったです。古事記には、こんなことが書かれてたのか。
それからもう一冊、思いがけない本と出会いました。

「水木しげるの古代出雲(角川書店)」
という漫画です。水木しげる先生とは、説明するまでも無く「墓場(ゲゲゲの)鬼太郎」の原作者。その水木先生が私と同様、荒神谷/加茂岩倉遺跡からヒントを得て古事記を解釈、先生なりの結論を導き出されてました。これはありがたい!

自分と同様の疑問を持ち、同じことを行った先駆者がいたとは、非常に心強い。以降、本書は「水木しげるの古代出雲」を参照する場合、「水木先生」と呼称します。
このように私は、漫画ばかり読み漁って、出雲中央図書館を後にしました。

お次は資料館。出雲大社から徒歩5分のところに、「島根県立古代出雲博物館」があります。荒神谷遺跡/加茂岩倉遺跡から出土した、全ての銅剣/銅矛/銅鐸をはじめとして、土器や須恵器/勾玉など、すごい数の出土品が展示されてました。
圧巻は、平安時代の出雲大社の復元模型。当時48mあったとされる、1/10サイズの模型です。

とても1日では回りきれない情報量。私は、親切な解説員の話を伺いながら、たくさんの写真を撮りました(フラッシュさえ焚かなければ、写真撮影OK)。
ちなみに、出雲中央図書館で読んだ「マンガで楽しむ出雲神話」は、ここでも読めます。

最後に博物館のガイドブックを購入。以降、本博物館を参照する場合、「ガイドブック」と称します。
気がついたら、あっという間に閉館時間を迎えてました。

それから日本の歴史。中学生程度の知識は欲しいところ。ここは2001年に市販された、
「新しい歴史教科書(扶桑社)」
を参照します。何でも当時、日本の「自虐的歴史観」を何とかしようと、有識者たちが集まって市販されたものらしい。
当時私は、中学生の頃に習った日本史の知識も薄れかけてたので、初版本を購入しました。以降「歴史教科書」と書かれてた場合、この教科書を参照していると思ってください。

後はネット。IT技術者である私は、ググる(ネットで検索する)のは得意。足りない情報は、ネットで補います。以降、
「ネットで検索すると」
とか、
「調べてみると」
と書かれてた場合、ウィキペディアを参照していると思ってください。

「なんだ、wikiか」

と侮ることなかれ。実際ウィキペディアからは、思わぬ情報を手にすることができました。もちろん私が参照したwikiのページは、全てソース(根拠)を検証しています。
また、ウィキペディア以外のサイトを見た場合、その都度、注釈を入れます。
それでは始めましょう。

古事記/日本書紀/風土記

古事記、ご存知の通り、日本最古の文章です。
その序文によれば、稗田阿礼(ひえだのあれ)が28歳の時、天武天皇から記憶力の良さを見込まれて、「帝紀」、「旧辞」などの誦習(しょうしゅう、口に出して繰り返し読むこと)を命じられたそうです。

帝紀とは、それまでの天皇の系譜が記載された書物。旧辞とは、当時の豪族たちが持っていた歴史や伝承を取りまとめたものらしい。どちらも現存しません。それらを稗田阿礼が暗記したそうです。

そして稗田阿礼が、自分の頭でまとめたことを誦し、太安万侶(おおのやすまろ)が記録しました。こうして古事記は完成、712年、元明天皇に献上されました。
古事記は、上巻/中巻/下巻の全3巻で構成されてます。内容は、

上巻 :日本神話(神代記)
中巻 :初代神武天皇から第15代応神天皇までの天皇記(人代記、但し序盤は神も登場)
下巻 :第16代仁徳天皇から第33代推古天皇までの天皇記(人代記)

に分かれてます。

続いて日本書紀。これは舎人親王(とねりしんのう)という人が、当時の役人たちに編集させ、取りまとめた歴史書です。古事記から8年後、720年に完成しました。
古事記は全3巻ですが、日本書紀は全30巻!
古事記の10倍の長さです。また、日本書紀における神代記は、はじめの2巻だけ。残りの28巻は全て人代記、すなわち天皇記です。

歴史教科書によると、672年に「壬申の乱」という皇位継承争いがあったらしい。大海人皇子(おおあまのおうじ)が地方の豪族たちを取りまとめ、大勝利をおさめました。これにより、中央の大豪族の力は抑えられ、豪族たちの政治干渉を排除することに成功しました。
大海人皇子は天武天皇として即位、律令国家(律令によって統治の枠組みが決められている国)の基礎を築きました。「日本」という国号も、この時期に生まれたそうです。

つまり、「国」としての自覚が高まった時期だったんですね。ならば、日本国はこんな歴史を持っているんだぞと、国内外に知らしめねばならない。そこで天武天皇は、国史の編纂を目指したわけです。

そして、国内向け歴史書として完成したのが古事記。海外向け歴史書として完成したのが日本書紀。
海外向けとは当時、中国大陸を支配していた、遣唐使で有名な「唐」を指します。従って日本書紀は、漢文で書かれています。

これに対し、国内向け歴史書である古事記は、音仮名(おんがな)を交えて書かれてます。音仮名は「万葉仮名」とも言い、簡単に言うと「当て字」。例えば万葉集で、恋という言葉は「古比、古飛、故非、孤悲」などと書かれてます。(歴史教科書より)

要するに、漢字に意味は無い。ちなみに音仮名を崩して単純化したのが、ひらがなやカタカナです。
従って、古事記を唐の人が読んでも、「ちょっと何書いてるか分かんない」わけ。
もちろん意味のある漢字(訓読み)も使用されてます。

最後に風土記(ふどき)。これは各地方の文化や風土を編纂させた報告書のことです。日本書紀が国家公務員が書いたのに対し、風土記は地方公務員が書いたものと思えばいい。

「出雲国風土記」、「播磨国風土記」、「肥前国風土記」、「常陸国風土記」、「豊後国風土記」の5つが現存してます。このうち出雲国風土記は、ほぼ完全な形で残ってます(他の風土記は、一部が欠損している)。

以降は、古事記に何が書かれているのかをメインに、必要なときに日本書紀や風土記を参照しながら進めます。
が、古事記を読み説くためには、私には大きな壁がある。