猿田毘古(サルタヒコ)

ニニギノミコトは、アメノウズメに言いました。

「サルタヒコが故郷に帰るので、送ってあげなさい。そして、サルタヒコの御名をあなたが継ぐのです」

こうしてアメノウズメは、猿女君(サルメノキミ)という名前になりました。
故郷の阿邪訶(あざか:地名)に帰ったサルタヒコは、釣りをしていた時、比良夫(ひらふ)貝に手を挟まれて溺れてしまいます。この時3人の神様が生まれるのですが、省略。
アメノウズメ改めサルメノキミは、サルタヒコを送って帰ってくる時、大きい魚/小さい魚、たくさんの魚たちに問いかけました。

「お前たち、天つ神の御子(= ニニギノミコト)にお仕えするかい?」

魚たちは、みんな言いました。

「お仕えしまーす!」

ところが海鼠(ナマコ)だけは黙秘権を行使、何も言いませんでした。

「答えないのはこの口か!」

サルメノキミは紐小刀(ひもがたな)で、その口を裂きました。
このためナマコの口は、今でも裂けているらしい。

考察
ここ、古事記でもっとも不可解な部分です。神様が謎の行動を取ったり、謎の歌を詠ったりするのとは異なります。
この部分、物語/ストーリーが繋がってないんです。

サルタヒコの故郷は阿邪訶(あざか)。阿射加神社(あざかじんじゃ)がある、三重県と解釈されてます。そこでサルタヒコは溺れてしまう。
その後、サルメノキミは魚たちに、

「お前たち、ニニギノミコトにお仕えするかい?」
これが、
「お前たち、溺れたサルタヒコを知らないかい?」

と、尋ねたなら分ります。
貝に挟まれ、海に溺れたサルタヒコは何処へやら、その後はサルタヒコと全く関係の無い話になっている。
どういうことでしょう?
この部分、ストーリーが雑になっている訳ではありません。本当に話が途切れてます。

ちなみにサルメノキミが、魚たちと会話する部分は分かってます。ナマコがヒントになりました。
これ、海女(あま)の話なんです。
海女とはご存知の通り、海に潜ってアワビ、サザエ、ナマコなどを採ることを生業とする女性のこと。
海女が海に潜って、岩に張り付いたアワビやナマコを獲る時、ナイフ(磯ノミ)で岩から剥ぐでしょう。ナマコの口を裂いたのは、これを意味してるんです。

海女の歴史は大変古く、縄文時代から存在してたらしい。魏志倭人伝にも、海女の記載があります。
古事記は日本の歴史書。海女という伝統的な文化が記載されてても、不思議ではありません。さらに海女は、アマテラスと密接な関係にあります。

アマテラスが祀られている伊勢神宮。伊勢神宮には、アワビで作った「熨斗鮑(のしあわび)」が奉納されるでしょう。熨斗鮑とは、アワビを剥くように薄く切っていき、それを干したもの。結婚式などの祝儀の贈り物に添える熨斗紙(のしがみ)は、ここからきています。
熨斗鮑を伊勢神宮に奉納するためには、三重県の海に潜る海女の存在は欠かせません。海女が、アマテラスと密接な関係にあったのが分かるでしょう。

ところで奈良時代、海女たちはどのような姿で海に潜ってたのでしょう?
おそらく、全裸に近い状態で潜ってたはずです。かつて全裸に近い状態で踊った、元祖ストリッパーがいましたね。
私は稗田阿礼は、三重の海に潜る海女をモデルとして、アメノウズメを創作したと考えてます。

天宇受賣(アメノウズメ)。天照をアマテラスと読むのなら、天宇受賣をアマノウズメと読んでもいいでしょう。アマノウズメ、すなわち「海女宇受賣(音仮名)」。
それがサルメノキミに改名して、(海に潜って)ナマコの口を裂いた。
間違いなく海女の話ですよ。
ちなみに何故、伊勢神宮にアワビが奉納されるのかは、お察しください。
アワビがホトの象徴だなんて、口が裂けても言えません。

話は変わってサルタヒコ。ご覧になってお分かりの通り、海女とは全く関係ありません。
仮に、ナマコの口を裂いたのが海女の話だったという、私の考察が間違っていたとしても話が繋がらない。

サルタヒコ。天孫降臨時に道案内役を買って出たサルタヒコ。その故郷は三重。伊勢神宮があるのも三重。そこに奉納する、アワビを獲る海女が居るのも三重。
話は繋がってないけど、私の考察通りだとすれば、三重で繋がってますね。三重に何があると言うんだ??
猿女君、サルメノキミ…

「猿女君(さるめのきみ)は、古代より朝廷の祭祀に携わってきた氏族の一つである。アメノウズメを始祖としている。
本拠地は伊勢国と想定されるが、一部は朝廷の祭祀を勤めるために、大和国添上郡稗田村(現在の奈良県大和郡山市稗田町)に本拠地を移し、稗田氏を称した」

ウィキペディアに記載された文章をぼーっと眺めてました…

あ、分かった!
サルタヒコは名義貸しの神様だったんだ。それでアメノウズメと出会う必要があったのか。
つまりですねえ、

(1) 稗田阿礼が創作した神様、すなわち物語
(2) 古事記が書かれた、奈良時代より前に起こった事象

2つに分けて考えるんです。
古事記のこの部分、(2)に該当するのは海女と猿女君、この2つだけ。

「猿女君(さるめのきみ)は、古代より朝廷の祭祀に携わってきた氏族の一つである」

間違いなく猿女君は、大和王権時代に存在してたはず。状況証拠はあります。だって、猿女君の末裔が稗田阿礼なのだから。
稗田阿礼のご先祖様、猿女君の出身地も伊勢国、すなわち三重。
これで全てが繋がりました。

サルタヒコの使命は、天孫降臨時における道案内役ではありません。道案内が居なくても降臨する場所は、イザナギが禊ぎを済ませた筑紫の日向の高千穂に決まってます。
天孫降臨時のサルタヒコの役割は、アメノウズメと出会うこと。何が何でもサルタヒコは、最初にアメノウズメと出会わなければならなかった。だからアマテラスは、アメノウズメとサルタヒコを出会わせた。

そしてニニギノミコトは、アメノウズメをサルメノキミに改名させる。
こうすることによって、古代より朝廷の祭祀に携わってきた猿女君のご先祖様をアメノウズメにすることができる。
猿女君は、大和王権に仕えていた巫女です。巫女の元祖がアメノウズメ。元祖ストリッパーは、巫女の元祖でもあります。

稗田阿礼は、自分が創作したアメノウズメを巫女の元祖とするために、サルタヒコという名義貸しの神様を創作した。そしてアメノウズメがサルメノキミに改名すると、サルタヒコは用無し。サルメノキミが送って故郷の三重に帰らせる。こうすれば、猿女君の出身地である三重にアメノウズメを繋げることができる。そして用無しのサルタヒコは、貝に挟まれて溺れさせる。

稗田阿礼、考えたなあ。
それにしてもサルタヒコの扱い、ひどくね?

コノハナノサクヤヒメ

ニニギノミコトは笠紗(かささ)の岬で、麗しき美人に出会いました。それはそれは麗しき「べっぴんさん」。声を掛けないと失礼な話です。

「あなた、名前は?」
「私は大山津見(オオヤマツミ)の神の娘で、名前は神阿多都比売(カムアタツヒメ)、別名、木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)と申します」
「結婚しない?」

どっかのヤリ〇ンと、根は同じですね。

「困りましたわ。私は何とも申し上げられません。私の父、大山津見(オオヤマツミ)の神に相談します」

オオヤマツミは大いに喜び、姉の石長比売(イワナガヒメ)を添えて、多くの貢物(=嫁入り道具)を送ってきました。
今コノハナノサクヤヒメと結婚すると、もれなくイワナガヒメも付いてくる!
神話の時代から、通販のような抱き合わせ商法は、あったんですねえ。
ところがイワナガヒメは、とても醜かった。はっきし言ってブサイク!

「ごめん、無理」

ニニギノミコトはイワナガヒメを送り返し、コノハナノサクヤヒメだけと結ばれました。

可愛いは正義!
古事記にそう書いてあります。
そこでオオヤマツミは言いました。

「イワナガヒメと居ると、天つ神の御子の命は石のように長く続きますのに。
そしてコノハナノサクヤヒメと居ると、木に咲く花のように繁栄されますのに。
ところがイワナガヒメを返され、コノハナノサクヤヒメだけと結ばれましたので、天つ神の御子の命は木に咲く花が散るように、限られたものになるでしょう」

こうして天皇も寿命がある、限られた命となりました。
要するに、イザナギ/イザナミ神話の焼き回しです。

「毎日、地上の人間1000人殺してあげる」
「ならば私は、毎日1500人の子供を産ませよう」

天皇は普通の人間ではありません。イザナギ/イザナミの範疇(はんちゅう)ではない。
そこで改めて、天皇にも寿命があることを謳い直してます。
ちなみに、ここで初めて「天皇命(すめらみこと)」、天皇という呼称が出てきます。

しばらくしてコノハナノサクヤヒメは、ニニギノミコトに言いました。

「できちゃった」
「えっ?」
「あなたの子供ができちゃった。間違いなく、あなた(=天つ神)の子よ」
「ちょ待てよ、1回しかやってないじゃんか!
そんなの国つ神の子に決まっている」

サイテーのヤローだな。1回でも中〇ししたんだろーが!
コノハナノサクヤヒメは返します。

「私が信じられないって言うの?
それならば、誓約に委ねましょう。
もしお腹の子が国つ神の子なら、無事に産まれないわ。
天つ神の子なら、無事に産まれるでしょう」

そう言ってコノハナノサクヤヒメは、戸の無い産屋を造り、その中に入って壁土を塗って、産屋を塞ぎました。
そして、まさに生まれようとした時、産屋に火を放ちます。

「ちょ、コノハナノサクヤヒメ!」

ゴウゴウと炎は燃え盛ります。その時、

「オギャア、オギャア!」
ニニギノミコトに産声が聞こえました。
炎の中から生まれたのは、火照命(ホデリノミコト:隼人族の祖先)、火須勢理命(ホスセリノミコト)、火遠理命(ホオリノミコト)の3人です。
ちなみに末っ子のホオリノミコトは、「天津日高日子穂穂手見命(アマツヒタカヒコホホデミノミコト)」とも言います。
「高日子」と書かれているということは、何か特別な神様なのですね、分かります。

考察
この部分、稗田阿礼の「クセ」をよく表してます。
結論から言うと、特にホオリノミコトは、炎の中から生まれなければならなかったんです。天津日高日子穂穂手見命(アマツヒタカヒコホホデミノミコト)。この神様は、この後「山幸彦」と名前を変えます。
山幸彦こそ天皇の祖先、初代神武天皇のおじいさんになります。

前にホトから火を吹いて、死んだ神様がいましたね。我々人間を生んだイザナミです。
天皇の(祖先の)母親は、火の中から3人の神様を生みました。イザナミと対比させてるんです。

人間の祖先イザナミは火に焼かれて死にますが、天皇の祖先は火の中から生まれるフェニックス。こういう設定だから、コノハナノサクヤヒメは産屋に火をつけたんです。

くだらない理由でニニギノミコトとコノハナノサクヤヒメを喧嘩させたのは、コノハナノサクヤヒメを密室の産屋に閉じ込めさせるため。そして、コノハナノサクヤヒメが産屋に火をつけたのは、炎の中から天皇の祖先を誕生させるため。

炎の中から天皇の祖先が生まれるという、結論ありきで創作されてるから、それまでの過程が雑。稗田阿礼は歴史家であっても小説家ではなかった。
稗田阿礼のクセが、改めて分かってきましたね。

山幸彦と海幸彦(その1)

火照命(ホデリノミコト)は海幸彦(うみさちひこ)として、いろんな魚を獲っていました。
火遠理命(ホオリノミコト)は山幸彦(やまのさちひこ)として、いろんな動物(鹿など)を獲っていました。
以降、ホデリノミコトを「海幸彦(うみさちひこ)」、ホオリノミコトを「山幸彦(やまのさちひこ)」と称します。
ちなみに二男の火須勢理命(ホスセリノミコト)は、登場しません。
3人生まれないと、験を担げませんからねえ。
稗田阿礼は3人にするため意味のないキャラ、ホスセリノミコトを創作したのでしょう。
ある時、山幸彦は海幸彦に提案しました。

「一度、お互いの道具(釣り針と弓矢)を交換して、仕事を交換してみないかい?」
「やだ」←子供か!
「一度やってみようよ、兄さん」
「やだ」←子供か!
「一回だけで、いいからさあ」
「やだ」←子供か!
「どうしてもダメ?」
「それじゃ、一度だけだからな」

山幸彦は釣り針を持って、喜んで釣りに出かけます。
ところが魚は一匹も釣れず、挙句の果て、釣り針を海に無くしてしまいました。

フンフフッフ~ン♪
山幸彦は、鼻歌交じりに帰ってきました。
海幸彦は問いかけます。

「魚は釣れたか?」
「山の幸も己がさちさち。海の幸も己がさちさち」
「いいから釣り針を返せ!」

フンフフッフ~ン♪
「だから釣り針を返せってばよ!」
「…無くしちった、(・ω<) てへぺろ」
「何だと、ゴルァ!」
「ごめん、兄さん」
「とにかく釣り針を返せ!」

山幸彦は御佩(みはかし)の十拳の剣を砕き、500本の釣り針を作りました。

「これで勘弁してくれよ、兄さん」
「やだ」←子供か!

今度は1000本の釣り針を作りました。

「これでお願い!」
「やだ」←子供か!
「Return to me the original hook!」←欧米か!
(オレの釣り針を返せ!)

山幸彦は泣きながら、黄昏の海辺に佇みます。その時、塩椎神(シオツチノカミ)がやってきて問いかけました。

「どうされましたか、虚空津日高(ソラツヒコ:原文まま)」
「実はかくかくしかじかで、兄の釣り針を探さなければならないのです」
「さようでございましたか。それならば、良い手があります」

シオツチノカミは隙間の無い、細かく編んだ竹かごの小船を造りました。その船に山幸彦を乗せて言いました。

「私が船を押し流します。そのまま行くと、味御路(原文まま)があります。
その道を進めば魚鱗で造られた宮殿、海神(ワタツミ)の神殿があります。
その門に着いたら傍らの井戸の上に、香りのよい木(原文:湯津香木(ゆつかき))があります。その木の上に居れば、ワタツミの娘が現れるはず。
そこで相談なさい」

お分かりでしょうか。
「隙間の無い、細かく編んだ竹かごの小船」、潜水艦です。
「魚鱗で造られた宮殿」、海底宮殿です。
ちなみにワタツミは、(省略しましたが)イザナギ/イザナミが生んだ、海の神様です。

山幸彦は教えられた通り、少し行きました。(そう遠くないところに行ってますね)
すると果たしてその通り、香木がありました。その木に登って待っていると、海神(ワタツミ)の娘、豊玉毘賣(トヨタマヒメ)の侍女が、井戸に水を汲みにやってきました。
侍女が玉器(たまうつわ)に水を汲もうとした時、井戸の水に光が映りました。

「何これ?」

香木の上を見ると、麗しき男がいました。山幸彦、かなりのイケメンだったようです。
山幸彦は侍女に声を掛けます。

「喉が渇いた。ちょっと水を飲ませてくれないかな?」
「どうぞ」

ところが山幸彦は水は飲まず、首にかけてあった美しい玉(原文:璵)を口に含んで、玉器に吐き出しました。すると玉は、玉器の底に引っ付きました。

「何これ、取れない!」

侍女は、そのまま玉器をトヨタマヒメに渡します。
ここ、唾を接着剤代わりにして、無理やり玉をトヨタマヒメにプレゼントしてますね。山幸彦が首にかけてあった玉、おそらく真珠でしょう。そして、プレゼントした相手が豊玉毘賣(トヨタマヒメ)。
この後の、何気ない伏線になってます。

トヨタマヒメは侍女に問います。

「この玉は…
ひょっとして、誰か来たのですか?」
「はい、井戸の上の木に人がいまして。それが、すごいイケメンですの!」

そこでトヨタマヒメは、イケメンを見に行きました。

「おや、いい女」
「あら、いい男」

またこのパターンか。
「お父さま、とっても素敵な方がいらっしゃいましたのよ」

ワタツミは自ら赴いて、イケメンを見に来ました。

「あなた様は天津日高(アマツヒコ:ニニギノミコト)の御子、虚空津日高(ソラツヒコ)様ですな!」

すぐに山幸彦を宮殿内に招き入れ、美智(=あしか)の皮を八重に畳んで敷いた上に絁(あしぎぬ:絹の織物)を八重に畳み敷き、その上に座って頂きました。
そして、百取机代物(ももとりのつくえしろもの:たくさんの机と供え物)に、ご馳走を準備して宴会を開きました。有無を言わさぬ結婚式です。