天孫降臨

アマテラスとタカギノカミは言います。

「葦原の中国を平定したと報告がありました。アメノオシホミミよ、今こそ降りなさい」

高木神(タカギノカミ)。タカミムスヒという、天地創造時に現れた2番目の神様でしたね。大国主の国譲りのクライマックスシーンに出てこなかったくせに、ちゃっかりここで再登場してます。

ちなみにタカミムスヒはオオクニヌシに、「背中が煤けてる」と言われて以降、タカギノカミで統一されてます。この後、タカミムスヒは出てきません。
そしてアメノオシホミミ、国譲りの時に、

「芦原の中国は、大変騒がしい」

と、ビビッた神様です。

「そのつもりだったんですが、実は子供が生まれまして…」
「はあ?」
「その名を、天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(アメニキシクニニキシアマツヒタカヒコホノニニギノミコト)と言います。この子が降りるのにふさわしいでしょう」

長い!
通称、この神様は「ニニギノミコト(邇邇芸命)」と呼ばれてます。高天原の神様は、長い名前が多い。例えばビビりの神様、アメノオシホミミは「正勝吾勝勝速日天忍穗耳命(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト)」。
別に長い名前を紹介する必要は無いんですが、気になった文字があります。それは、

「高日子」
阿遅志貴高日子根(アヂシキタカヒコネ)という神様がいましたね。自分を穢れた死人と間違われて、ブチ切れた神様です。
ニニギノミコトとアヂシキタカヒコネ。全く関係ない神様ですが、何故か「高日子」という字が使われてます。

とにかくニニギノミコトは、タカギノカミの娘(天地創造時、2番目に対生成した神様の娘)と、アメノオシホミミ(スサノオとアマテラスの誓約で生まれた、1番目の神様)との間に生まれた子供です。
日子番能邇邇芸命(ヒコホノニニギノミコト)は、命じられました。

「豊葦原水穂(とよあしはらみづほ)の国は、あなたが治めるべき国です。命令に従い、天下り天降りなさい。」

かなりの「上から目線」。
でも、日子番能(=万能なアマテラスの子)であるニニギノミコトなら、何とかなるでしょう。
それにしても、芦原の中国を豊葦原水穂国、「豊かな葦が覆い繁る、水穂の国」にしたのは誰だと思ってるんだ?

ニニギノミコトが天から降りようとした時、天の八衢(あまのやちまた)で、上は高天原に光を放ち、下は芦原の中国まで光を放つ神様がいました。
天の八衢とは、地上(芦原の中国)まで、たくさんの分かれ道があることを意味します。
アマテラスとタカギノカミは言いました。

「アメノウズメ、お前はか弱き女だが顔で勝てる。
だから、あの者に聞きなさい。『お前は誰た?』と」

アメノウズメ、はじめに出てきましたね。天岩戸前で踊った、元祖ストリッパーです。
それにしても得体の知れない神様に、か弱い女性の神様を先兵に出すか、普通?

「あなたは誰?」
「私は、国つ神の猿田毘古(サルタヒコ)。
天つ神の子が降臨すると伺いまして、道案内を奉ろうと参上した次第でございます」

そこで天児屋命(アメノコヤネノミコト)、布刀玉命(フトダマノミコト)、天宇受売命(アメノウズメノミコト)、伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)、玉祖命(タマノオヤノミコト)、合計5人の神様をニニギノミコトに従わせて、天降りさせました。
この5人の神様を、五伴緒(イツノトモノオ:5人のお伴をするもの)と言います。
イツノトモノオ、既に出てきた神様ですね。

アメノコヤネ :祝詞を唱えた
フトダマ  :サカキの木を天岩戸の前に置いた
アメノウズメ  :元祖ストリッパー
イシコリドメ :八咫の鏡を作った
タマノオヤ  :八尺瓊勾玉を作った

全て、アマテラスの「天岩戸隠れ」に関わった神様です。
そしてアマテラスは、「三種の神器」をニニギノミコトに渡します。
三種の神器。言うまでもなく、これが天皇の象徴となります。
その他、策士オモイカネなど、いろんな神様が降臨のお供をします。

ニニギノミコトは、天の石位(高天原で座っていた場所)を離れて、天の八重多那雲(幾重にもたなびく雲)を押し分け、道を掻き分け天の浮橋から浮島に降り立ち、筑紫の日向の高千穂に降臨しました。
これが天孫降臨。たくさんの神々をお供にして降臨するとは、ニニギノミコトは「おぼっちゃまくん」ですね。「地獄から蘇えったヒーロー」とは、あまりにも対照的です。
そして、

「ここは韓国(朝鮮半島)に通じとって、笠沙の御崎(かささのみさき)に向かっとって、朝日が射しとって、夕日が照らしよる国ぶぁい。
いっちゃん良か土地ぶぁーい!」

と言って、底津石根(地底深くの石)に太い柱を立て、氷椽「ひぎ。今でいう千木(ちぎ)のこと」が、高天原に届くほど壮大な宮殿を建てて住みました。やってることは、「地獄から蘇えったヒーロー」と同じですね。

考察:天孫降臨

ここでは、4点ほど整理しておきます。

1点目:
単純な疑問。せっかく「出雲国」を譲ってもらったのに、何故ニニギノミコトは出雲国に降臨しなかったのか?
答えも単純。出雲国に降臨しなかったのではなく、降臨できなかったんです。
ニニギノミコトの子孫が天皇となり、古代大和王権が成立します。国譲りは大和王権に対して行われたことは、遺跡から分かってます。
つまり、ニニギノミコトが筑紫の日向の高千穂に降臨した時、出雲国は存在してたんです。

もっともストーリー的には、筑紫の日向の高千穂しか降臨する場所はありません。伏線がありましたね。
イザナギが禊ぎを行った神聖な場所こそ、降臨する地にふさわしい。

2点目:
筑紫の日向の高千穂とはどこか?
朝鮮半島に通じるから福岡県の博多だ。いや、宮崎県の日向だ。
などと意見が分かれてるようですが、

しぇからしか!
こう考えればよかろーもん。

天孫降臨の地は九州、以上。

3点目:
天孫降臨時、ニニギノミコトのお供をしたのがイツノトモノオ。アマテラスを天岩戸から引っ張り出した5人の神々です。何故イツノトモノオが、ニニギノミコトのお供をしたのでしょう?
イツノトモノオは、ニニギノミコトを護衛しています。
天皇の祖先、ニニギノミコトを護衛するのは当然の話ですが、何故イツノトモノオが再出演してくる?

アマテラスを天岩戸から引っ張り出した神話は、史実からヒントを得て創作されたと書きましたね。ここも史実に基づいて創作されてますが、これまた後で触れます。

4点目:
タカギノカミ(高木神)こと、高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)は天地創造時、2番目に対生成した神様でした。この神様の娘がニニギノミコトの母。これで気づいたことがあります。

天地創造時、3番目に対生成した神様は、神産巣日神(カミムスヒノカミ)でしたね。この神様の手からこぼれ落ちた神様がスクナヒコナ。オオクニヌシの国造りに貢献した、小人の神様です。

高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)
神産巣日神(カミムスヒノカミ)

名前が似てますね。「高御」と「神」の違いだけ。おそらく、

高御産巣日神 :高天原の神様(天つ神)を生む神様
神産巣日神 :芦原の中国の神様(国つ神)を生む神様

という意味なのでしょう。
古事記に戻ります。

猿田毘古(サルタヒコ)

ニニギノミコトは、アメノウズメに言いました。

「サルタヒコが故郷に帰るので、送ってあげなさい。そして、サルタヒコの御名をあなたが継ぐのです」

こうしてアメノウズメは、猿女君(サルメノキミ)という名前になりました。
故郷の阿邪訶(あざか:地名)に帰ったサルタヒコは、釣りをしていた時、比良夫(ひらふ)貝に手を挟まれて溺れてしまいます。この時3人の神様が生まれるのですが、省略。
アメノウズメ改めサルメノキミは、サルタヒコを送って帰ってくる時、大きい魚/小さい魚、たくさんの魚たちに問いかけました。

「お前たち、天つ神の御子(= ニニギノミコト)にお仕えするかい?」

魚たちは、みんな言いました。

「お仕えしまーす!」

ところが海鼠(ナマコ)だけは黙秘権を行使、何も言いませんでした。

「答えないのはこの口か!」

サルメノキミは紐小刀(ひもがたな)で、その口を裂きました。
このためナマコの口は、今でも裂けているらしい。

考察
ここ、古事記でもっとも不可解な部分です。神様が謎の行動を取ったり、謎の歌を詠ったりするのとは異なります。
この部分、物語/ストーリーが繋がってないんです。

サルタヒコの故郷は阿邪訶(あざか)。阿射加神社(あざかじんじゃ)がある、三重県と解釈されてます。そこでサルタヒコは溺れてしまう。
その後、サルメノキミは魚たちに、

「お前たち、ニニギノミコトにお仕えするかい?」
これが、
「お前たち、溺れたサルタヒコを知らないかい?」

と、尋ねたなら分ります。
貝に挟まれ、海に溺れたサルタヒコは何処へやら、その後はサルタヒコと全く関係の無い話になっている。
どういうことでしょう?
この部分、ストーリーが雑になっている訳ではありません。本当に話が途切れてます。

ちなみにサルメノキミが、魚たちと会話する部分は分かってます。ナマコがヒントになりました。
これ、海女(あま)の話なんです。
海女とはご存知の通り、海に潜ってアワビ、サザエ、ナマコなどを採ることを生業とする女性のこと。
海女が海に潜って、岩に張り付いたアワビやナマコを獲る時、ナイフ(磯ノミ)で岩から剥ぐでしょう。ナマコの口を裂いたのは、これを意味してるんです。

海女の歴史は大変古く、縄文時代から存在してたらしい。魏志倭人伝にも、海女の記載があります。
古事記は日本の歴史書。海女という伝統的な文化が記載されてても、不思議ではありません。さらに海女は、アマテラスと密接な関係にあります。

アマテラスが祀られている伊勢神宮。伊勢神宮には、アワビで作った「熨斗鮑(のしあわび)」が奉納されるでしょう。熨斗鮑とは、アワビを剥くように薄く切っていき、それを干したもの。結婚式などの祝儀の贈り物に添える熨斗紙(のしがみ)は、ここからきています。
熨斗鮑を伊勢神宮に奉納するためには、三重県の海に潜る海女の存在は欠かせません。海女が、アマテラスと密接な関係にあったのが分かるでしょう。

ところで奈良時代、海女たちはどのような姿で海に潜ってたのでしょう?
おそらく、全裸に近い状態で潜ってたはずです。かつて全裸に近い状態で踊った、元祖ストリッパーがいましたね。
私は稗田阿礼は、三重の海に潜る海女をモデルとして、アメノウズメを創作したと考えてます。

天宇受賣(アメノウズメ)。天照をアマテラスと読むのなら、天宇受賣をアマノウズメと読んでもいいでしょう。アマノウズメ、すなわち「海女宇受賣(音仮名)」。
それがサルメノキミに改名して、(海に潜って)ナマコの口を裂いた。
間違いなく海女の話ですよ。
ちなみに何故、伊勢神宮にアワビが奉納されるのかは、お察しください。
アワビがホトの象徴だなんて、口が裂けても言えません。

話は変わってサルタヒコ。ご覧になってお分かりの通り、海女とは全く関係ありません。
仮に、ナマコの口を裂いたのが海女の話だったという、私の考察が間違っていたとしても話が繋がらない。

サルタヒコ。天孫降臨時に道案内役を買って出たサルタヒコ。その故郷は三重。伊勢神宮があるのも三重。そこに奉納する、アワビを獲る海女が居るのも三重。
話は繋がってないけど、私の考察通りだとすれば、三重で繋がってますね。三重に何があると言うんだ??
猿女君、サルメノキミ…

「猿女君(さるめのきみ)は、古代より朝廷の祭祀に携わってきた氏族の一つである。アメノウズメを始祖としている。
本拠地は伊勢国と想定されるが、一部は朝廷の祭祀を勤めるために、大和国添上郡稗田村(現在の奈良県大和郡山市稗田町)に本拠地を移し、稗田氏を称した」

ウィキペディアに記載された文章をぼーっと眺めてました…

あ、分かった!
サルタヒコは名義貸しの神様だったんだ。それでアメノウズメと出会う必要があったのか。
つまりですねえ、

(1) 稗田阿礼が創作した神様、すなわち物語
(2) 古事記が書かれた、奈良時代より前に起こった事象

2つに分けて考えるんです。
古事記のこの部分、(2)に該当するのは海女と猿女君、この2つだけ。

「猿女君(さるめのきみ)は、古代より朝廷の祭祀に携わってきた氏族の一つである」

間違いなく猿女君は、大和王権時代に存在してたはず。状況証拠はあります。だって、猿女君の末裔が稗田阿礼なのだから。
稗田阿礼のご先祖様、猿女君の出身地も伊勢国、すなわち三重。
これで全てが繋がりました。

サルタヒコの使命は、天孫降臨時における道案内役ではありません。道案内が居なくても降臨する場所は、イザナギが禊ぎを済ませた筑紫の日向の高千穂に決まってます。
天孫降臨時のサルタヒコの役割は、アメノウズメと出会うこと。何が何でもサルタヒコは、最初にアメノウズメと出会わなければならなかった。だからアマテラスは、アメノウズメとサルタヒコを出会わせた。

そしてニニギノミコトは、アメノウズメをサルメノキミに改名させる。
こうすることによって、古代より朝廷の祭祀に携わってきた猿女君のご先祖様をアメノウズメにすることができる。
猿女君は、大和王権に仕えていた巫女です。巫女の元祖がアメノウズメ。元祖ストリッパーは、巫女の元祖でもあります。

稗田阿礼は、自分が創作したアメノウズメを巫女の元祖とするために、サルタヒコという名義貸しの神様を創作した。そしてアメノウズメがサルメノキミに改名すると、サルタヒコは用無し。サルメノキミが送って故郷の三重に帰らせる。こうすれば、猿女君の出身地である三重にアメノウズメを繋げることができる。そして用無しのサルタヒコは、貝に挟まれて溺れさせる。

稗田阿礼、考えたなあ。
それにしてもサルタヒコの扱い、ひどくね?