オオアナムチが根の堅州国に到着すると、大きな屋敷がありました。
その前に一人の女性がいます。スサノオの娘、須勢理毘売(スセリビメ)でした。
「おや、いい女」
「あら、いい男」
一目会ったその日から、恋の花咲くこともある。
2人はその場で結婚します。
それにしても、どっかで見たシーンだなあ。
スセリビメは早速、オオアナムチを屋敷に連れて行きます。
「お父さん、とても素敵な方がいらっしゃいましたわ」
ドドドドドド…
スサノオは相変わらず、すごい迫力です。
ゴゴゴゴゴゴ…
「何の用だ、葦原色許男(アシハラノシコオ)」
日本書紀には葦原醜男と書かれています。醜男(しこお)とは、「ブサイク」の意。古事記からは「色男」の意だと感じますが。
前に「黄泉醜女(よもつしこめ)」という、イザナミを追いかけた恐ろしい鬼女がいましたね。ここから「醜男」という呼び名が生まれたのでしょう。古事記には「黄泉醜女」とは書かれてますが、「葦原醜男」とは一言も書かれてません。
「まあいい、今宵は蛇の部屋で寝るがいい」
「大変だわ。でも、私が助けてあげる」
スセリビメは、「蛇の比禮(ひれ)」という布をオオアナムチに渡します。
「もし蛇があなたを襲ってきたら、この布を3度振るのです」
「布を3度振る?」
「これには蛇を祓う力があるのです」
オオアナムチは言われた通り、蛇の部屋で寝入ります。
果たして出てきました、無数の蛇!
ここは探検隊が入るジャングルか?
オオアナムチは蛇の布を3度振りました。すると、蛇たちは退散します。
おかげでオオアナムチは、朝までぐっすり寝ることができました。
ドドドドドド…
「今夜は、ムカデと蜂の部屋で寝るのだ」
スセリビメは、「ムカデと蜂の比禮」をオオアナムチに渡します。
オオアナムチ、今宵はムカデと蜂の部屋で寝入ります。
サソリと毒グモの部屋だったら間違いなく密林、探検隊が入るジャングルですね。
オオアナムチは布を3度振りました。
これでムカデと蜂も退散!
スサノオ、今度はオオアナムチを広い野原に連れて行きます。そして、鳴鏑(なりかぶら)という矢を広野に放ちます。
ゴゴゴゴゴゴ…
「あの矢を取ってくるのだ」
「分りました」
オオアナムチが矢を探しに行くと、スサノオは周りに火を放ち、広野を火の海にします。
「お父さん、止めて!」
「うるさい、男の世界に女が口を出すでないわ!」
昭和のスポ根マンガ並みの、怒涛の展開です。あたり一面、火の海がオオアナムチを取り囲みます。
オオアナムチ、絶体絶命の大ピンチ!
その時、一匹のネズミが出てきてこう言いました。
「内はホラホラ、外はスブスブ」
内は洞穴(ほらあな)で、外は窄(すぼ)まっている。
つまり、「ここ掘れワンワン」という意味。
オオアナムチは、ネズミに言われた場所を踏みつけます。すると地面に穴が開いて、ほら穴に落ちました。
ほら穴に隠れていると、やがて広野は燃え尽き、火は消え去ります。
ネズミが、例の鳴鏑矢をくわえ持ってきました。
矢羽の部分は、ネズミの子供達に全部食べられてしまったけど、まあいい。
「ネズミさん、ありがとう!」
「ああ、オオアナムチ…」
スセリビメは泣きながら、喪具(喪の道具)を持って、スサノオの元へやってきます。
「色許男は死んだか」
スサノオは確かめに、焼け野原となった広野に出向きます。
その時、
ドドドドドド…
黒煙の中から、オオアナムチが鳴鏑矢を持って戻ってきました。
オオアナムチにも、だいぶ貫禄がついてきたようです。
「色許男め、なかなかやりおるわい」
スサノオは屋敷の広い部屋へ、オオアナムチを招き入れます。
そして大の字に寝ころび、
「さあ、わしの頭の虱(しらみ)を取るのだ」
その頭を見たら、シラミではなくムカデ!
たくさんのムカデが蠢いていました。
するとスセリビメは、椋(むく)の木の実と赤土をこっそりオオアナムチに渡します。
オオアナムチは椋の木の実を噛み破り、赤土と混ぜて、唾として吐き出しました。
「どうやらムカデを噛み破り、唾として吐き出してるようだな」
スサノオはオオアナムチをはじめて心から愛しいと思い、眠りにつきます(原文:心思愛而寢)。
今がチャンス!
オオアナムチはスサノオの髪をつかみ、部屋にあるたくさんの柱に結び付けます。そして、部屋の入り口を大きな石(五百引石:いおびきのいし)で塞ぎます。
| コラム:石(岩) アマテラスも天石戸に隠れてしまいましたね。そしてアマテラスが天石戸から引っ張り出された時、フトダマは注連縄(しりくめなわ)を岩戸に張りました。 オオアナムチは、スサノオの部屋の入り口を五百引石で塞いだ。どうやら石(岩)には、神聖な意味があるみたい。磐座(いわくら)信仰には、何かを封じ込めるという意味があるようです。 |
「さあ、行こう!」
オオアナムチはスセリビメを背負い、スサノオの宝である生大刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)、そして天詔琴(あめののりこと)を持って逃げ出します。その時、
ポロロ~ン!
琴が近くの木に当たってしまいました。
スサノオの琴です。木に当たっただけで、大地に大音響が響きます。
スサノオは、その音で目覚めます。
「色許男め、逃げおったな!」
ズシーン!
スサノオは立ち上がります。もちろん屋敷なぞ、一気に引き倒されます。入り口を塞いだ神聖な五百引石など、全く意味がありません。
ところが柱に結び付けられた髪を解いているうちに、オオアナムチは遠くまで逃げてしまいます。
オオアナムチは見抜いてました。スサノオ唯一の弱点を。
それは不器用!
例え五百引石が無意味でも、不器用なスサノオだったら、髪を解くには時間がかかる。
ズシーン! ズシーン!
ようやく髪を解いたスサノオが、オオアナムチを追いかけます。
オオアナムチは、黄泉比良坂(よもつひらさか)までたどり着きました。地上まであと少し!
その時、スサノオの大きな声が響いてきました。
「お前が持ち出した生大刀と生弓矢で、お前の異母兄弟たちを坂の峰に追い詰めろ!
川の瀬に追い詰めて屈服させろ!
お前は大国主の神となり、宇都志国玉(うつしくにたま)の神となれ!
わが娘、スセリビメを正妻とし、
宇迦能山(うかのやま:出雲大社北東にある山)の麓に、
地底の岩に巨大な宮柱を撃ち込み、高天原まで届く壮大な神殿を造れ!
そして芦原の中国を治めるのだ!
分かったか、この野郎!
(原文:是奴也)」
オオアナムチは気づきます。
「そうか、そういうことだったのか…」
仮にオオアナムチが、根の堅州国に行ってスセリビメを連れ帰っただけなら、2人は八十神たちに、あっという間に殺されたでしょう。
因幡の白兎を救った、心優しいオオアナムチ。が、優しいだけでは男は生きて行けない。
そこでスサノオは、徹底的にオオアナムチを鍛え直したのです。
スサノオから授かった名、その名は大国主(オオクニヌシ)!
「オレは今、猛烈に感動している。父ちゃん、いやご先祖様、オレは『芦原の中国』の星になるぜ!」
オオクニヌシの両の目に、メラメラと炎が燃え盛ります。
根の堅州国から戻ったのに、オオクニヌシは穢れもしません。禊ぎもしない。
仏教の言葉を借りれば、
「地獄から蘇えったヒーロー」
の誕生です。
ここからオオクニヌシの無双が始まります。
スサノオに言われた通り、オオクニヌシはその大刀と弓を持って、八十神を追い立てます。
何と言っても、あのスサノオに鍛えられたんです。芦原の中国では無敵!
坂の峰毎に追い詰めて倒し、川の瀬毎に追い詰めて屈服させ、あっという間に出雲国の主となります。
これが大国主命の誕生神話。