アマテラスの思惑(その2)

アマテラスとタカミムスヒは、再び八百万の神々に問いかけます。

「アメノワカヒコは、なかなか帰ってきません。
ワカヒコが何故戻ってこないのか、理由を問いただしましょう。
今度は誰を遣わしましょうか?」

あれっ、今度は理由を問いただすの?
それじゃ、アメノホヒが3年経っても戻ってこなかったとき、どうして理由を問いたださなかったの?
私の疑問には答えず、策士オモイカネは言います。

「雉の鳴女(ナキメ)が妥当かと」

雉(キジ)のナキメは、アメノワカヒコの元へ飛んでいきます。

「ワカヒコ、お前を葦原の中国に派遣したのは、荒ぶる神々を説得させるためだぞ。
どうして8年も戻ってこない?」

すると、天佐具売(アメノサグメ)が言います。
アメノサグメ、日本書紀には「天探女」と、訓読みで書かれてます。一般的に、天邪鬼(アマノジャク)の原型となった神様とされてます。

「この鳥は鳴き声が悪い。射殺しましょう」

ワカヒコは、天之波士弓(あめのはじゆみ)と天之加久矢(あめのかくや)を持ち、その雉を射殺しました。

ワカヒコが持ってた弓矢は、天之麻迦古弓(あめのまかこゆみ)と天之波波矢(あめのははや)でしたね。微妙に名前が変わってます。
とにかくナキメを射抜いた矢は、天安河(あめのやすかわ)の河原にいる、アマテラスと高木神(タカギノカミ)のところまで届きました。タカギノカミとは、タカミムスヒの別名です。
ここも神様の名前が変わってます。
タカギノカミが矢を取ってみると、血がついてました。

「この矢は、アメノワカヒコに与えた矢だ。
もしワカヒコに邪心があるなら、この矢に当たるな」

こう言ってタカギノカミは、矢を芦原の中国に投げ返しました。
すると矢は、寝ていたワカヒコの胸を直撃!
ワカヒコは死んでしまいました。これを「返し矢」と言います。

なるほど、そういうことか。
ここ、高天原の神様どうしが殺し合ってますね。あまりいい場面とは言えない。
高天原の神様、特にタカミムスヒの手を汚さないため、神様も弓矢も一時的に名前を変えたのか。あるいは天つ神と国つ神、それぞれが呼ぶ呼称を変えてるのかもしれない。
こういう細かいことには拘るけど、ストーリーには雑なところがある。
古事記は、不思議な「緩急」を持ってます。

夫を亡くしたアメノワカヒコの妻、下照比売(シタテルヒメ)の泣く声は、高天原まで届きました。その泣き声を聞いてワカヒコの父、アマツクニタマの神とその妻子が、芦原の中国に降りてきます。ワカヒコの親族も嘆き悲しみます。

そして喪屋(もや)を作り、いろんな鳥を鳴かせ、8日(原文:日八日夜八夜)が過ぎました。
その時、阿遅志貴高日子根(アヂシキタカヒコネ)の神が訪れました。この神様、シタテルヒメの兄です。
アヂシキタカヒコネの姿を見た、ワカヒコの親族は驚きました。
アヂシキタカヒコネは、ワカヒコと容姿がそっくりだったんです。

「ああ、息子は死んでなかった!」

ワカヒコの親族は、アヂシキタカヒコネに泣いて擦り寄ります。
ここで、アヂシキタカヒコネがブチ切れます。

「私は、友人を弔いに来ただけだ。
それなのに、どうして私を穢れた死人と間違えるのだ?」

アヂシキタカヒコネは、御佩刀(みはかし:腰に差した刀を敬った呼称)の十拳の剣を抜き、喪屋を切り倒し、蹴り飛ばしました。
喪屋は、美濃国(現在の岐阜県)まで吹っ飛んだらしい。
切った十拳の剣は、大量(おおはかり)、神度剣(かむどのつるぎ)とも言います。

アヂシキタカヒコネは、怒って飛び去りました。羽も無いのに飛べる神様も珍しい。
その時、高比売命(タカヒメノミコト:シタテルヒメのこと)は、その御名(原文まま)を詠います。

天なるや 弟棚機の 項がせる 玉の御統 御統に 穴玉はや み谷二渡らす 阿遅志貴高日子根神ぞや

この歌を「夷振(ひなぶり)」と言います。

謎だらけ!
ここ、古事記の中で、もっとも謎の多いところです。
ここは、謎だけでも洗い出しておきましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です