さて、三貴神が生まれたことに、イザナギは大いに喜びます。そして、
「アマテラスは高天原を治めなさい。ツクヨミは夜の国、スサノオは海を治めるのです」
しかしながらスサノオは、泣いてばかりいました。このため海は荒れ、山は枯れてしまいます。海とは、葦原の中国(地上界)の海。高天原に海は無かったはずです。
イザナギはスサノオに問いかけます。
「どうしてお前は、海を治めないのか?」
「根の堅洲国にいる、亡き母に会いたいのです」
「あのような、穢らわしいところに行きたいと言うのか?」
「はい」
「ならば、お前をこの国から追放する。出て行け!」
こう言ってイザナギは、淡海の多賀に隠居します。
イザナギが隠居した先は「淡海の多賀」。イザナギとイザナミが、2番目に生んだ「淡島」ではありません。近江の多賀と解釈されてます。
ここも大変興味深い。スサノオは、
「根の堅洲国にいる、亡き母に会いたいのです」
と言ってます。
「黄泉の国にいる、亡き母に会いたいのです」
とは言ってない。このため前述のように、黄泉の国と根の堅洲国の違いが分からないんです。さらに気になることがあります。
スサノオやアマテラス、ツクヨミは「イザナギの禊ぎ」から生まれましたね。イザナミからは生まれてない。それをどうしてスサノオは、
「根の堅洲国にいる、亡き母に会いたいのです」
と言ったのか?
これは、おそらく「穢れ」が関係しています。「死人 = 穢れている」という、当時(奈良時代)の思想が反映されてるんです。イザナミは死んで、黄泉の国の食物を食べて蛆が集ってましたね。黄泉の国は穢れてます。だからイザナギは、
「あんなところに行って穢れてしまった」
と、禊ぎを行いました。
「根の堅洲国にいる、亡き母に会いたいのです」
「あのような、穢らわしいところに行きたいと言うのか?」
「根の堅洲国も穢れている死者の国」という、舞台設定が成されてるんです。
しかしながら何故、スサノオがイザナミを「亡き母」と言ったのか、理由が分かりません。これは宿題として、後で考えてみましょう。
それから、
「お前をこの国から追放する」
原文には、しっかり「国」と書かれてます。外国へ行けという意味でしょうか。
とにかく奈良時代初期、「国」という自覚が確立していることが、はっきり分かります。
ところでもう1つ、気になることがあります。
イザナギは「伊邪那岐命」、イザナギノミコトと表記されてます。
ところがスサノオと会話する時だけ、「伊邪那岐大御神(イザナギノオオミカミ)」に変身するんです。
ここは建速須佐之男(タケハヤスサノオ)の「建速」と、何か関係がありそうですが、まだ推測の域を出ません。
とにかくイザナギから国外追放を命じられたスサノオは、国外追放されたくないと相談するために、高天原のアマテラスのところへ向かいます。
ズシーン!
ものすごい音が響き、山や川は動き、大地は震えました。
原文を読めば分りますが、すごい迫力です。スサノオが泣くだけで海は荒れ、山は枯れるのですから、歩けばどうなるか、ご想像ください。
イザナギがスサノオと会話する時だけ「大御神」に変身したのが分かる気がします。
ビックリしたのがアマテラス。
「きっとスサノオは高天原を奪おうと、やって来たに違いないわ!」
この時のアマテラスの心中お察しください。
歩くだけで山や川は動き、大地が震えるゴジラがやって来るんです。
急いで髪を解き、美豆羅(みずら:音仮名)にします。美豆羅(角髪)とは、弥生時代の男性の髪型。左右の耳のあたりを輪にして束ねた、あれです。ここから日本神話は、弥生時代をモチーフとしていることが分かります。要するに、アマテラスは男装したんですね。

そして左右の角髪と頭、左右の手、合計5つの勾玉(まがたま)の輪を巻き、背後に1000本の矢を、500本の矢を靫(うつぼ:矢を入れる細長い筒)に入れました。
弓を引き、いつでも撃てる体制を整え、力士の四股のように堅い庭を踏みしめます。
が、力が入り過ぎ!
太ももまで埋もれてしまいます。それでも土を雪のように蹴散らし、雄叫びを上げます。
「スサノオ、何しに来た!」
そうは言っても相手はゴジラ。弓矢で立ち向かうのは無謀ですよ、アマテラスさん。
スサノオは言います。
「いやいや、そう興奮しないでください。私はただ、姉さんに相談があるだけですから」
「何の相談だ!」
「実は、かくかくしかじかで、国外追放されたくないのです」
「そんな言い訳、信じられるか!」
この時のアマテラス、おそらく膝はガクガク震えてたと思います。
「それでは姉さん、ここは誓約(うけい)に委ねましょう」
誓約とは、誓いを立て、神に祈って天の判断を仰ぐこと(水木先生より)。
アマテラスがスサノオの十拳の剣を3つに折って噛み砕いて吹くと、多紀理毘売命(タキリビメ)、多岐都比売命(タギツヒメ)、市寸島比売命(イチキシマヒメ)という、3人の女神様が生まれました。
次にスサノオが、アマテラスから受け取った5つの勾玉を噛み砕いて吹くと、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(アメノオシホミミ)、天之菩卑能命(アメノホヒ)、天津日子根命(アマツヒコネ)、活津日子根命(イクツヒコネ)、熊野久須毘命(クマノクスビ)という、5人の男の神様が生まれました。
「私の勝ちですね。私の心が清らかだったからこそ、私の剣から女の子が生まれたのです」
スサノオは、勝ちを宣言します。
ここで留意して欲しいことがあります。
アマテラスが吹いたスサノオの剣から、3人の女神様が生まれました。
スサノオが吹いたアマテラスの勾玉から、5人の男の神様が生まれました。
2人が生んだ、初めての神様です。
合計8人の神様のうち、何人かの神様が、後々重大な役割を担うことになることだけ覚えといて下さい。
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コラム:アマテラスとスサノオの誓約 しかしながらアマテラスとスサノオの誓約が、アマテラスは女神であることを明確に宣言しています。 「それでは姉さん、ここは誓約(うけい)に委ねましょう」 と意訳しましたが、原文は「各宇氣比而生子(それぞれ誓約によって子を生みましょう)」と書かれてます。この後、それぞれの持ち物を噛み砕いて吹いてます。 ウホッ! |